おすすめ 安冨歩著『ジャパン・イズ・バック――安倍政権にみる近代日本「立場主義」の矛盾』
●おすすめ本の紹介をします。
安冨歩著『ジャパン・イズ・バック――安倍政権にみる近代日本「立場主義」の矛盾』です。この本は単なる安倍晋三批判ではありません。著者の鋭い指摘は、読者ひとり一人に向けられていきます。
●単なる安倍批判ではない
私は、オリンピックを東京誘致するために「(汚染水の)状況はコントロールされている」と、誰がどう見ても明らかなウソをつく安倍晋三氏には一刻も早く退陣して欲しいと願っています。実にけしからん、しょうもない首相だと思います。なので、一見、安倍批判本のように見える本書を読んだら、すっきり、溜飲が下がると期待しましたら、この本、そんな単純な本ではありませんでして、、
著者の安冨氏は、安倍晋三氏やこの国が抱える「病い」の原因を「立場主義」にあるとしています。立場主義とは、たとえ本心とは違っていても立場に則した振る舞いをして、立場上の発言をし、お互いの立場は最大限に尊重する生き方のこと。そうした立場の詰め物と化して生きる日本人で構成される日本社会。これこそがこの国の病いの本質だという指摘です。この本を読み進めていくと、この「病い」が、決して安倍晋三氏だけのものじゃなく、この国全体を覆うもので、ひいては、他ならぬ私の抱える「病い」でもあるんだと気づかされます。
●安倍晋三首相の「病い」は、私の「病い」?
この本のなかで、特にハッとさせられたのが、2013年2月28日に安倍晋三首相が行った施政方針演説についての言及です。ちょっと引用しますと、
ーーー「強い日本」。それを創るのは、他の誰でもありません。私たち自身です。「一身独立して一国独立する」私たち自身が、誰かに寄り掛かる心を捨て、それぞれの持ち場で、自らの運命を切り拓こうという意思を持たない限り、私たちの未来は開けません。ーー(引用終わり)
この首相演説の一節を読んだ私は、反射的に「ワタシちゃんとしなきゃ、がんばらなきゃ」という気持ちになったんです。ほんの一瞬間ではありますが、その時の気持ちをあえて言葉にすると、「自分の”持ち場”でやれることやる。そうしたらこの国の未来は拓ける。だからがんばらねきゃ」、です。なんだか背筋が伸びるような気持ちになった自分にゾッとしました。「持ち場」=「立場」です。「私は、私なりに、私の立場でがんばる」。そういうことが頭をよぎった、というわけです。よりにもよって、安倍首相のしみったれた立場主義的ワード羅列の演説を聞いて(読んで)、です。おそろしい。染み付いているのです。アンチ安倍を自認する私にも立場主義が。これは痛い気づきでした。
●生きづらさからの解放 そのための指南書
同書は後半部分でかなりの頁をさいて、安倍首相の施政方針演説のどこがどうマズイのか、その歴史的経緯まで切り込み、懇切丁寧に説明していきます。これが分かりやすくかつ明快である分、読者の心に突き刺さるわけですが、立場主義の恐ろしさをしっかり理解できます。それだけにとどまらず、どうしたらこの病いから脱することができるか、ごく具体的なアドバイスも書かれています。この本は、生きづらさからの解放、そのための指南書にもなっています。おすすめです。