基地移設に揺れる沖縄を訪ねて 

2月4日、沖縄県名護市の市長選挙の投開票が行われた。米軍普天間飛行場の移設計画を事実上容認する自民党・公明党系の元市議会議員の新顔が、反対する名護市長の稲嶺進氏を破り、初当選を果たした。

私は、名護市長選挙の最終盤の1月31日から1泊で沖縄をたずねた。衆議院議員のあべともこさんが、稲嶺名護市長の応援に行くというので一緒に連れていってもらったのだ。

名護市は沖縄本島のちょうど真ん中あたりに位置していて、那覇空港からは車で1時間ほどかかる。稲嶺市長の選挙事務所はこじんまりしていた。中に入ると大勢の人が応援に駆けつけ、とても賑わっていた。簡易机に並べてあったのは手作りサータアンダギーに漬物、どなたかの畑でとれたというシークワーサー。お茶を出してくださった。稲嶺市長のお連れ合いと後援会長の渡具知明さんから話しを聞くことができた。渡具知後援会長は、「普天間飛行場周辺は人口密度が高くて危険だから、名護市辺野古に移設するという。名護にも人は大勢住んでいるのに。これは差別だ。戦時中に日本が沖縄を捨て石にした構造と何も変わらない」と言っていた。

稲嶺市長本人にもお会いすることができた。街頭演説を終えて選挙事務所に戻ってきた稲嶺市長にあべともこ議員が駆け寄って、「どうかどうか頑張ってください」と深々と頭を下げていた。

選挙前、米軍機事故が相次いで起こった。また米軍ヘリの墜落事故を巡り、松本文明前内閣府副大臣が、「それで何人死んだんだ」とやじを飛ばして、辞任したばかりだった。この発言があったので、選挙は厳しいと聞いてはいても、まさか自民党系議員に3千票もの大差をつけられるとは思っていなかった。政府が沖縄の人への差別を強めれば、ますます反発が強まり稲嶺市長に有利に働く、そう私は考えていたのかもしれない。しかし、よくよく考えてみたら、政府自民党の沖縄への差別発言は今に始まったことではなく、何度となく繰り返されてきているので、ただただうんざりしている人も多いのではないだろうか。それがまた政府の思惑なのかもしれないと思うと非常に腹立たしいのだが、そんな状態を沖縄に強いておきながら、差別発言のたびに、もっと怒れ!とばかりに、怒りの矛先が自民党候補に向くことを勝手に期待していたのかもしれない。多いに反省した。

実に沖縄県土の7割強が基地で占められている。どこに行っても基地があるのだ。翁長沖縄県知事は、「基地こそ沖縄経済振興の最大の阻害要因」だと明言しているが、基地があるがゆえの犯罪も多い。沖縄の人たちは慢性化する「痛み」に耐えつつ、国策の代理戦争のような市長選挙を担わされている。

あべともこ議員は、「沖縄でもっとも負担を負わされるのが子どもたちだ」とよく言う。そのことをまざまざと実感することになったのが、沖縄視察二日目の早朝に訪ねた普天間第二小学校だ。ここは昨年12月に米軍機のヘリ窓が落ちた場所で、現地に行って驚いたのは、小学校の隣りに幼稚園があり、その向かい側には学童保育があったこと。綺麗に手入れされた住宅の庭先のほんの少しだけ離れたところに米軍基地のフェンスがあった。

今回の視察の現地コーディネートを引き受けてくださったのは、沖縄の仲村未央県議だが、仲村氏は、「仮に民間機のヘリ窓が首都圏の学校のグランドに落ちてきたらどうか。大ごとになるだろう。しかし米軍のヘリ窓が沖縄の小学校に落ちてもまるでなかったかのようにされている」と憤っていた。

なぜヘリ窓が落ちたのか、日本政府はその検証をせず、米軍機の飛行再開を事実上許している。そうであるにもかかわらず、普天間第二小学校の子どもたちは、上空飛行を想定した避難訓練をさせられているのだという。仲村県議はこの点を何よりも怒っていた。育つ環境も政治も選ぶことができない子どもを危険にさらしておきながら、飛行を前提にした避難訓練を子どもにさせる。国は、最低限の安全対策を講じているとでも言いたいのだろうが、これはまったく欺瞞だと県議は指摘していた。

小さな子どもが文句を言わないのをいいことに、あったこともなかったかのようにしてしまう。こうした日本の政治のありようが沖縄に凝縮している。これは何も沖縄だけに限ったことではない。福島もそうだ。いや、日本中がそうなっていないだろうか。私たち自身もまたこの痛みに鈍感になっていないだろうか。

旅の最後に、あべともこ衆議院議員と仲村県議が、翁長知事と面会する場に私も同席させてもらった。翁長知事はすらりと背が高い、笑顔が優しい人だった。知事は、「沖縄は未だに植民地支配が続いているのですよ」と言った。しかしそう伝えたところで、本土の人になかなか理解されない。この伝わらなさこそが沖縄問題なのだと言っていた。

今、知事は、安倍首相に対して、「首相は日本を取り戻すというが、その日本に沖縄は含まれますか?」と問うている。これは、本土の私たち一人一人に投げかけられた問いでもあると思った。

今回の沖縄視察で、翁長知事と仲村県議、稲嶺市長、三人の沖縄の政治家に会うことができた。彼らはとてもかっこよかった。キリッとしている。言葉が的確で力強い。権力と命がけで闘っているからなんだと思う。

この原稿を書いている今も名護市長選挙の結果は残念でならない。しかしここで落ち込んでいたらいけない。今秋には沖縄県知事選挙も控えている。

※沖縄視察を踏まえたあべともこ議員の基地問題に関する質疑は、動画で見ることができます。「衆議院インターネット中継」のサイトから、2月2日予算委員会、阿部知子で検索すると見られます。ぜひご覧になってみてください。